みなさんは、株を買う時に、どの程度、その会社の事業の分析をされるのでしょうか? 投資家にとっての事業分析の位置付けは、以下の図 『因果のマトリクス』 で説明できます。 この考え方が、頭にすっきりと入っている人とそうでない人では、投資成果が大分違います。
図は、縦軸に「原因」と「結果」、横軸に「過去」と「将来」という関係になっています。
このうち、左上の(1)の領域は、「過去の結果」、つまり業績を表します。過去の結果とは、要するに、損益計算書(P/L)と、貸借対照表(B/S)に掲載されているものですね。ちなみに、現在のB/Sは、過去の損益(P/L)の積み重ねでできています。
そして、(1)の横の(4)の領域は、「将来の結果」を表します。すべての投資家は、この(4)の領域であるこの「将来の結果」を予測(妄想?)して、それが良いと思うからこそ、企業の株を買います。つまり、領域(4)の将来の結果こそが、投資家にとっての最終目的なのです。
さて、ここからが問題です。
ほとんどの投資家とアナリストは、この(1)と(4)の領域に生きている「結果の世界」の住人です。年がら年中、やれPERやROEがどうだ、成長率がどうだ、といった数字の話をしているのです。
ところが、すべての物事に共通しますが、私たちが本当に注視すべき重要な点は、常に「結果」でなく、その「原因」なのです。
つまり、本当に大事なのは(1)「過去の結果」や(4)「将来の結果」でなく、それを作っている、「原因(しくみ)」の方、つまり図の下の(2)と(3)の2領域の方なのです。そして、企業の業績を作る原因(しくみ)、それこそが、"事業"です。
ですから、"事業分析"をするということは、業績の"原因分析"をするということにほかなりません。私たちはしばしば、売上や営業利益の数字ばかりに拘泥し、その数字を、実際に作り出している肝心の事業の方を無視してしまうことがあります。
多くのアナリストは、(1)「過去の結果」をベースとして、(4)「将来の結果」を語りたがります。
例えば、前期売上が8億、今期売上が10億だったので、来期は15億はいくだろう、と。
しかしここにはロジックがありません。来期売上15億を作るのは、今期売上の10億ではなく、その企業の"事業"だからです(当然ですが)。
では、なぜ"結果"ばかりに目がいってしまうのか? 理由は簡単です。この業績を作る「もと」である事業というシロモノは、数字と違って、目に見えないからです。だから目が行かないのですね(笑)。
ですが、そもそも会社が利益を上げているということは、"世の中の誰かが欲するものを、会社が生み出しているから"にほかなりません。ですから、私たちは、結果としての数字を追うとともに、それを作り出す元である事業のしくみについても考える必要があるのです。特に、むずかしく考える必要はありません。
ここでは、30分程度で出来る事だけ、書いてみます。むしろ30分以上、分析作業に時間がかかる会社への投資は、そもそも控えるべきかもしれません。
まず、投資しようとしている会社が、
を押さえておくとよいかと思います。
おそらく2.会社の扱う製品・サービスについては、ある程度認識しているものの、1と3については、あまり把握していないのではないでしょうか?
これは、四季報(や日経会社情報)の仕入先/販売先の欄を見ればわかります。できるだけ、ネット等で主要な仕入先/販売先の動向や業績は見ておいたほうがいいかもしれませんね。これらの企業からの仕入が止まったり、主要な顧客がへそを曲げたり、顧客自身の業績が下がったりしたら、それこそ、投資先企業の業績が一気に落ち込むわけですから(自動車会社のサプライヤー集約のように)。
そして、時間(とやる気?)があれば、4.ライバルと比べて、どの程度、うまく価値を作りだせているのか?(営業利益率/売上高回転率)についても見てみましょう。
ライバルとは、お客を取り合う相手と定義されます。ライバル企業の特定化自体が面倒という話もありますが、「“投資先企業の名前”、“競合”or ○○業(○○には投資先企業の業界が入る)」というキーワードで、Googleで検索して出てきた会社ぐらいはフォローしておいた方がよさそうです。もっとも競合のいない企業への投資が望ましいのですが。
単純ですがこれらが、領域(2)"事業"を見る、ということです。企業が価値を生み出す源泉を把握するということです。
ウォーレン=バフェットは、"財務分析"というよりも"事業分析"の洞察力が人並み外れて高い人です。彼は、消費者独占企業にしか投資をしません。(*)事業分析の良書「フィッシャー」も参考にしてくだい。
そして、次に、領域(2)から(3)への変化、これからの事業構造がどうなっていくかを見ます。
具体的には、今後の以下のような外部環境の変化を見ることになります。
こういった一連のことを考えた上で、領域(3)将来の事業構造の様子がやっと掴めるようになります。もし、領域(2)と領域(3)がそれほど変わらなければ、ラッキーです。なぜなら、将来のキャッシュフローがそれだけ読みやすいということですから。投資においては、変化は最大のリスクなのです(最高の企業とは、田舎町で月極駐車場を運営する会社です)。
領域(3)が明確になって、初めて投資家にとっての最終目的である領域(4)がわかるようになります。
さて、以上見てきましたが、領域(1)〜(4)の領域に対する考え方で、投資家を分類することができます。
どの領域も見ない→単純に勝てない
領域(3)未来を妄想する→「この会社は、絶対将来でかくなる!」あくまで妄想なので勝てない。またその結果とし ての領域(4)も把握できていない。
領域(1)のうち、特に、企業がこれまで溜め込んできた"財産"の価値に着目する→財産はあっても"まずい事業"を行っている企業へ投資して失敗する(悪い会社を安く買うパターン)。
業界人は、領域(2)と(3)の事業のみ、よく知っている。→会社の具体的な"価値"がわからないので、高値で買ってしまい失敗する。(良い会社を高く買うパターン)
領域(1)から領域(4)を類推する→過去の結果は、あくまで結果だと気付かず、将来予測に失敗する。結果と原因を分けて認識していない。
領域(1)の分析→領域(2)の評価→領域(3)への変化の分析→領域(4)の価値評価の順にバランスよく見てゆく。原因と結果を押さえることで、投資リスクを最小化、割安に買うことで高いリターンを実現できる。
実際の学びの順序は、領域(1)、つまり財務の基礎の勉強、次に、領域(4)の類推、つまり価値評価の手法の勉強。ついで、領域(2)事業構造の分析手法の修得、そして、領域(3)新聞等で、これから世の中がどうなっていくかの洞察という順序になろうかと思います。