投資でもっとも大事なことは、その企業の将来を洞察することです。これは口で言うほど簡単ではありません。
過去の成績は決算書を見ればすぐに分かりますが、将来の業績は、企業の今後の事業戦略について深く理解しなければ、なかなか予想することができません。そこで今回は、将来を見抜いて投資する手法、シナリオインベストメントの方法をご紹介します。
シナリオインベストメントでは、3つのステップで分析を行い、投資判断につなげます。
3つのステップとは以下の3点です。
今回は、プロトコーポレーション(4298)という企業を使って、この三つのステップを具体的にみていきましょう。
プロトコーポレーションは、中古車情報サービス「Goo」を提供している会社です。当社名を聞いたことがある人は少ないかもしれませんが、中古車情報「Goo」を知っている方は多いのではないでしょうか?
実は、プロト社は自動車関連情報、生活関連情報、不動産、その他、と多岐にわたって事業展開を行っています。ですが売上高、利益ともに、自動車関連情報がそのほとんどを占めている構造ですから、今回の分析は、この自動車関連情報事業に焦点を当てて行います。
さて、プロト社は、これまで「Goo」を中心に収益を拡大してきましたが、今後はどのような事業展開をして行くのでしょうか? その可能性を探ってみましょう。
ここでは、企業の将来像を予想するために、事業展開マップというツールを使用します。事業展開マップとは、企業が行っている事業が、今後どのように変化する可能性があるかを見極めるためのマップです。
まずは事業ドメインを中心に、任意の"2つの軸"を使って考えます。
このとき、よく発展軸として使われるのが「顧客軸」「地域軸」「製品・サービス軸」などです。そのほかにも、「付加価値軸」「機能追加軸」などもありますが、コツは軸になりうるもののパターンをいくつか知っておくことです。
たとえば、あるメーカーは国内で高シェアを誇っていますが、マーケットが成熟してしまって成長が見込めないとします。
このメーカーが発展するためには、「海外へ進出し売上を伸ばす」、「卸業者として販売サービスを強化する」の二つの方向性が想定できます(例 1 )。
あるいは、今、受注販売が中心の企業では、今後、自社製品を新しい客に展開してゆくことで、事業拡大の可能性を考えてみるのも面白いでしょう(例 2 )。
次の図は、私たちが予想した、プロト社の事業展開マップです。
分析時点(2006年2月1日)でのプロトは、雑誌(Goo)からWebベースのサービス(Goo net)に、その軸足を移行し始めています。また、当時、海外展開等も積極的に進めているようとしていました。このことから、縦軸は「チャネル/エリア」と設定しました。
Webにシフトすることによって、雑誌作成にかかる原価率を低減するとともに、情報提供以外のサービスを展開する可能性も出てきます。
横軸の「事業領域」は、サービス内容を広げていくであろうことを予想し、このようにしました。
分析時(2006年2月1日)においては、中古車の情報のみを扱うサービス内容ですが、なんらかの新規サービス(保険・ローンなど)を付加する段階を経て、中古車情報を扱う事業以外の事業へと発展していくのではないかと予測できました。
また、将来に向けて見積もりサービスや保険・ローンなどの付加価値サービスの提供を 始めていたのです。その他にも、Web上での検索エンジンサービスも提供を開始していました(マーズフラッグ)。
事業展開マップは、何度も書き直しながら完成させるものです。企業のIR担当者に電話をしながら事業の枠組みと発展の方向性を洗い出していくと良いでしょう。
さて、プロト社における事業発展の方向性をつかみました。ここからは、それぞれ実際にどこまでいくのか、また、それぞれのシナリオが達成された場合の売上規模や利益率はどのようになっているのかを推察してゆくことになります。
現状ベースのプロト社の営業利益は16.5億円でした。
しかし今後、goo-netが強化され、ウェブへのチャネルシフトが行われれば、原価率は下がってゆくと考えられます(シナリオA)。
プロト社のIR担当者に聞いた話をふまえ、10%原価率が低下すると仮定することにしました。原価率が低下すれば、その分営業利益率が上昇します。ここでは営業利益率が13.5%まで向上すること仮定します。この場合、売上が同水準で推移したとしても、営業利益は27億円(現状の約1.6倍)となります。
また、can-getが充実し、付加価値サービスが確立していくと、売上・営業利益率ともに向上することになるでしょう。ここでは、売上が15億円増しの215億へ、営業利益率が1.5%増しの15%、営業利益は32.5億になると推定しました(シナリオB)。
さらに、海外展開や検索エンジンのマーズフラッグなどが立ち上がるならば、売上は向上し、営業利益は36億まで増加すると見込みました(シナリオC)。 業績シミュレーションは、ちょっと難しいかもしれませんが、コツは思い切って数字を仮置きしてしまうことです。最初は荒くても何度も繰り返すうちに精度は高まってきます。
逆に、数字をおかないで議論していては、いつまでたって投資判断の結論はでないので注意が必要なのです。
このような数字を前提とした場合のプロト社の企業価値を計算し、分析時(2006年2月1日)の株価と比較したのが、次の図です。
企業価値の算定方式は、山口揚平著「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」(ランダムハウス講談社)にも紹介したざっくり企業価値評価の方法を用いました。詳しくは同書をお読みください。
このシナリオでは、AまたはBのシナリオの段階においても2006年2月時点の市場株価は割安と私たちは判断しました。
当時、プロト社の株価は、1,550円前後を行ったりきたりしていましたが、その後堅調に推移し、現在(2008年1月10日現在)は3,000円まで上昇しています。
プロト社の前決算期における営業利益は、29.8億です。これはシナリオAの水準で、株価も推定した企業価値に近い水準で推移しています。自動車関連情報の利益率は改善され、営業利益は大きく増加しました。
結果的にこのときの分析は成功と言えるかもしれません。ただし、プロト社の株価が上がったという"結果"はそれほど重要ではありません。どのようにして、それを分析したのか、そのプロセスの方が重要なのです。
まずは、その企業の行く末を自分で考えてみること、そしてその結果を具体的な数字で表現するということが大事です。これができるようになることで初めて、投資が場当たり的なギャンブルではなく、訓練によって成長可能な仮説検証作業となるからです。
投資で大事なことは、1年や2年ですぐに利益を上げることではありません。投資に根拠を持たない人が損をしても得をしても、おそらくそれは「偶然」に過ぎないでしょう。 若いうちは利益そのものよりも、自分の仮説と実際との差を縮めることのほうが大切だと思います。
どうせ投資は一生やりつづけなければならないものです。だから、今学ぶべきは、すぐに儲かる安易な投資テクニックではなく、どっしりと腰をすえた本物の知識だと思います。
ぜひ、シナリオインベストメントを使って「いろいろな会社の企業分析」にチャレンジしてほしい。きっと半年後には大きく成長していることでしょう。